ストレス


ストレスとは
・元々は材料力学上の言葉であり、例えばスプリングを引き伸ばしたり、ゴム球を押し縮めたりした時
 に、その物質の内部に生じた応力(おうりょく、Stress)の事を言う。
・ハンス・セリエ(カナダの生理学者、1907年~1982年)が「ストレス学説(ストレス理論)」を提唱し、
 ストレスという言葉が使われはじめた。
・ストレスの語源から考えて、これを人間における反応に忠実に当てはめるならば、「ストレスとは、何
 らかの刺激(ストレッサー)によって生体が歪められ、それに対して何らかの反応が迫られている状態」
 を意味する。
・ストレスを引き起こす要因を「ストレッサー」と言うが、ストレッサーになるはずのものに順応し、反応す
 る必要が生じなければストレスではなくなる。(これについては後述する。)

ストレスの種類
 ① distress(不快ストレス、悪いストレス)
  自分の体や心が苦しくなったり、嫌な気分になったり、やる気をなくしたりするようなストレス。
 ② eustress(快ストレス、良いストレス)
  自分を奮い立たせてくれたり、勇気づけてくれたり、元気にしてくれたりするストレス。

ストレッサーの種類
 ①物理的ストレッサー(寒冷、騒音、放射線など)
 ②化学的ストレッサー(煙草、臭気、薬物など)
 ③生物的ストレッサー(細菌ウイルスなど)
 ④心理的ストレッサー(怒り、不安、喜びなど)
 ⑤社会的ストレッサー(職場、家庭、生活の変化など)
あるいは④と⑤を次のように分類することもできる。
 a.発達的ストレッサー(進学、就職、結婚などのように、成長の過程で誰もが必然的に直面するもの)
 b.偶発的ストレッサー(事故、災害、病気、死別のように、予期できないできごとによるもの)

ストレッサーの受け止め方
・同じストレッサーでも、受け止める人によって「良いストレス」になるか「悪いストレス」になるかが違っ
 てくる(下記の「認知的評価」に個人差があるためである)。
  例: a.スポーツは、スポーツの好きな人にとっては良いストレスとなるが、嫌いな人にとっては悪い
       ストレスとなる。
      b.暑さは、暑いのが好きな人にとっては良いストレスになるが、暑いのは大嫌いな人にとって
        は悪いストレスになる。
・ストレッサーになるはずのものに順応すれば、それはストレッサーではなくなる。
  例: 臭くてたまらない臭いでも慣れれば何ともない。

ストレッサーの分類
 ①身体的ストレッサー
 ・生体の内部環境に直接影響を与えるストレッサーを指す。
  例)空気中の酸素分圧低下や出血による血圧低下など。
 ・下位脳幹を介して直接視床下部に情報が伝達される。(下図参照)
 ②精神的ストレッサー
 ・それ自体は内部環境に直接的な影響を与えないが、将来的には影響があることを予告するストレッ
  サー、あるいは高次処理依存的ストレッサー(猛獣の姿などの感覚情報など)。
 ・まず視床や大脳皮質で処理され、さらにその情報が大脳辺縁系に伝達される。
 ・特に扁桃体は、これら感覚情報が自己の生存(恒常性維持)にとって有益か有害かを評価する生
  物学的価値評価に中心的な役割を果たし、その結果を視床下部に送る。(下図参照)

         身体的ストレッサー         精神的ストレッサー
          ↓                   ↓
          ↓                  視床、大脳皮質
         下位脳幹                ↓
          ↓                  辺縁系(特に扁桃体:情動反応処理、記憶増強
          ↓  ←―――――――――――↓
          ↓ ↓                   →青斑核 → パニック発作
          ↓ ↓
         視床下部
          <外側核>―――――――<室傍核>
          自律神経調節機能       内分泌機能調節
         交感神経刺激          CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)分泌
         ↓        ↓                 ↓
  交感神経終末      副腎髄質            下垂体前葉
  ノルアドレナリン分泌  カテコールアミン類分泌    ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)分泌
  標的臓器          アドレナリン(約80%)      ↓
    ↓             ノルアドレナリン        副腎皮質 → 副腎皮質重量増加
    ↓             ドーパミン            副腎皮質ホルモン分泌増加
    ↓              ↓                 ↓
 心収縮力促進  心拍促進  血圧上昇
 筋・肝血管拡張  皮下血管収縮 
 呼吸促進  瞳孔拡大  消化器系活動抑制 
 血糖値上昇  血圧上昇
 顆粒球増多 リンパ球減少
 免疫抑制
・上図において、身体的ストレッサーも精神的ストレッサーも、最終的には視床下部を経て、同様の
 身体的状態に傾けることになる。
・人間には「休息and充填」モードと「戦闘or逃走」モードがあるとすれば、これは後者に相当し、この
 状態ばかりが長期間続くと当然のことながら病気になる。

ストレス反応
・ストレス反応とはホメオスタシス(恒常性)によって一定に保たれている生体の諸バランスが崩れた
 状態(ストレス状態)から回復する際に生じる反応をいう。
・ストレッサーにうまく対処できない場合、不適応や心理病理が起こってくる。
・ストレス反応を決めるものは、「認知的評価」と「対処行動」であるといわれる。
  認知的評価・・・・ストレッサーをどのように認知し、評価するのかによって、受けるストレスの強さは
            違ってくる。
  対処行動・・・・ストレッサーに対してどのように対処していくのか。
  多くの場合、人はストレッサーにうまく対処していき、その危機を乗り越え、人格的に一段と成長し
  ていく。
・ストレッサーが作用した際、生体は刺激の種類に応じた特異的反応と、刺激の種類とは無関係な一
 連の非特異的生体反応(ストレス反応)を引き起こす。

精神的ストレッサーによるストレス反応の段階
・精神的ストレッサーに曝露されたときの生体反応は、警告反応期、抵抗期、疲憊期の3つに分けら
 れる。
〔警告反応期〕
 この過程は、ショック相と反ショック相の2つに分けられる。
 ①ショック相
  ・いきなりストレスを受けてショックを受けている状態。
  ・ストレッサーの強度に応じて数分~1日ほどの期間。
  ・ストレスに対する適応が形成される以前のまったく受動的な状態であり、生体がストレスに振り回
   されている時期である。
  ・アドレナリンや副腎皮質ホルモンの分泌はまだ開始されず、生存上にとって具合の悪いさまざま
   な症状を伴う。
    血圧低下、体温低下、血糖低下、神経系の活動抑制、筋弛緩など。
    卒倒したり、立ち上がれなくなったりすることもある。
  ・この時間が長引くと、毛細血管と細胞膜の透過性増強、血液の濃縮、アシドーシス、細胞破壊、
   急性胃腸管びらんなどの症状が現れる。
  ・ストレッサーの強度が強烈すぎると、生体は警告反応期を突破できずに死んでしまう。
 ②反ショック相
  ・生命を守るため、ショックに対して積極的に防御反応をしている時期。
  ・生理的変化はショック相とは逆方向へ向かい、交感神経系の活動、および副腎髄質からのアドレ
   ナリンの分泌による生理的反応、すなわち、心拍数・心拍出量の増加、血圧上昇、血糖値上昇、
   呼吸数増加などが起こる。
  ・引き続き、副腎皮質ホルモンの分泌増加、副腎皮質重量増加が起こり、血糖上昇、顆粒球増多
   などが続く。
  ・胸腺、リンパ組織の急激な萎縮が起こり、リンパ球減少、免疫抑制状態が続く。
〔抵抗期〕
  ・反ショック相の防衛反応を維持し、安定してストレスに対応している状態であり、体は常に緊張状
   態にある。
  ・成長ホルモンの分泌亢進によって組織の同化作用も上向き、いったん減少した体重は回復する。
  ・対象となるストレッサーに対する抵抗力は増すが、別のストレッサーに対する抵抗力は却って弱く
   なる。すなわち、複数のストレッサーにさらされると病気に陥りやすい。
〔疲憊期〕
  ・強いストレッサーに長期間さらされたために、適応に必要なエネルギーを消耗し尽くし、適応反応
   の維持が困難になった状態である。
  ・いったん獲得されたストレッサーに対する適応力は減退し、全身症状が悪化しはじめる。
  ・体温低下、血圧低下、血糖低下、副腎皮質の脂質量の減少などが続発する。
  ・疲憊期の最終段階では生体はまったく抵抗力を喪失して、遂には死に至る。

ストレスレベルと生産性
・ストレスレベルが高すぎても、低すぎても生産性が落ちる。すなわち、適度なストレスを保ち続けること
 が仕事や学習に最大の成果を生み、健康状態をも良好に保ち続けることができる。
・ストレッサーが適度な量だけ存在しなければ本来的に有する適応能力も失われてしまう。


<関連リンク>
  アドレナリン(副腎髄質ホルモン)  副腎皮質ホルモン  視床下部ホルモン
  下垂体ホルモン  うつ病と対策  老化を遅らせる方法

2012年4月更新  stnv基礎医学研究室・清水隆文

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