鎮痛薬とは 鎮痛薬とは、痛みを取り除いたり、または軽減するために用いる医薬品のことである。
その種類としては、解熱鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、ステロイド薬、麻薬など がある。 主な鎮痛薬と特徴 1.解熱鎮痛薬 ◆アセトアミノフェン(パラセタモール) ・軽い発熱や頭痛、その他いろいろな痛みに対し、経口薬として繁用される薬剤成分の一つ。 ・全般的に副作用が少なく、特に小児の解熱鎮痛薬の第一選択薬にもなっている。 ・主に肝臓で代謝され、その代謝物が中枢神経系に到達して働くとされている。 ・抗炎症作用はほとんど持っていないため、NSAIDsには分類されない。 ・カフェインとエテンザミドを加えた「ACE処方」で用いられることが多い。 ・1873年に初めて合成され、1893年から医薬品として用いられている。 2.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) ・抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有するもののうち、ステロイドではない薬剤の総称。 ・アスピリンなどのサリチル酸類、イブプロフェン、インドメタシン(インダシンR)、ロキソプロフェ ンナトリウム(ロキソニンR)、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレンR)、などがある。 ・様々なNSAIDsは医学的作用には大差がなく、異なるのは用量、投与方法である。 2-1.作用機序 ・発熱のときの体温上昇はプロスタグランディンE2(PGE2)による。炎症時の末梢血管拡張や、 ブラジキニン感受性増強による疼痛はPGE2やPGI2によるものであり、NSAIDsによってこれら が抑制される。 ・発熱や炎症を起こすプロスタグランジン類(PG類)が産生される時にはシクロオキシゲナーゼ という酵素が関与しているが、これをアセチル化(アセチル基(CH3CO-) で置換)することに よって阻害する。 <アラキドン酸カスケード> 細胞膜のリン脂質 ホスホリパーゼA2 →↓ アラキドン酸 シクロオキシゲナーゼ →↓ ↓← 5-リポキシゲナーゼ PGG2 5-ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸(5-HPETE) ↓ ↓← 5-リポキシゲナーゼ PGH2 5-HETE、ロイコトリエン(LTA4 → LTB4、LTC4) ↓ ↓ PGD2、PGE2、PGI2、PGF2α、TXA2 LTD4 ↓ ↓ ↓ ↓ PGJ2 PGA2、PGB2 TXB2 LTE4 ↓ PGC2 ・PGE2やPGI2は胃酸分泌制御、胃粘膜粘液分泌作用もあり、これも同時に抑制されるため、 胃障害が出やすくなる。 ・また、シクロオキシゲナーゼはトロンボキサン (TX) の産生にも関与しており、これも同時に抑 制されるため、抗血小板作用を発現する(81~ 100 mg 1日1回という少量投与の場合。バフ ァリンなら1/2錠)。 2-2.各NSAIDsの特徴 [サリチル酸系]・・・・血小板凝集抑制作用や中枢性鎮痛作用を有する。 ◆アセチルサリチル酸(アスピリン) ・多くは一般用医薬品の経口薬として使用される代表的な消炎鎮痛薬である。 ・19世紀にヤナギの木からサリチル酸が分離され、解熱鎮痛薬として用いられていたが、強い 胃腸障害がみられた。しかし1897年バイエル社によりサリチル酸がアセチル化され、副作用 の少ないアセチルサリチル酸が合成された。 ・世界で初めて人工合成された医薬品である。 ・インフルエンザや水痘に感染した小児が使用すると、肝障害を伴った重篤な脳障害になる可 能性が指摘され、小児における服用は控えられている。 ・その他、エテンザミドがある。 [プロピオン酸系]・・・・消炎、鎮痛、解熱作用を平均的に有し、副作用が少ない。 ◆イブプロフェン ・消炎鎮痛作用や即効性に優れ、副作用が少ないために、多数の一般用医薬品の経口薬に 配合されている。 ・特に生理痛、関節炎、骨折や打撲、捻挫による痛みや腫れによく効くなどの知見がある。 ・抗血小板作用はアスピリンに比べて弱く作用の持続時間も短い。 ・経口以外にも、座薬や外用 (ジェルやクリーム)で用いられることもある。 ◆ロキソプロフェン ・ナトリウム塩が「ロキソニン」などの商品名で、医療用医薬品および一般用医薬品(第一類)と して用いられている。 第一類医薬品 : 薬剤師が常駐する店舗販売業や薬局にて、薬剤師が手渡しし、商品内容 や利用法について文書で購入者に説明する義務があるもの。 ・鎮痛作用が強く、白血球抑制作用も知られる。 ・消化器への副作用が少なく、現在日本で最も使用されている消炎鎮痛薬である。 ・経口以外に経皮貼布剤としても用いられる。 ・プロドラッグであり、体内ですみやかに活性の高いtrans-OH型に変換される。 [アリール酢酸系]・・・・消炎鎮痛作用は強力であるが、そのぶん副作用も大きい。 ◆ジクロフェナク ・ナトリウム塩が「ボルタレン」などの商品名で、医療用医薬品および一般用医薬品(第一類)と して用いられている。 ・副作用としては胃障害、腎障害、肝障害、ショック、急性脳症などが知られている。 ・関節炎、痛風、腎結石、尿路結石、片頭痛などの鎮痛目的で使用される。 ・さらに、小規模から中規模な手術後や、外傷、生理痛、歯痛を和らげるためにも使用される。 ・経口薬、座薬、筋肉注射、静脈注射、外用薬として用いられる。 ・その他、インドメタシンがある。 3.ステロイド系抗炎症薬 ・医療現場では「ステロイド」と略されることが多い。 ・主な成分として副腎皮質ステロイドやその誘導体が含まれており、抗炎症作用や免疫抑制 作用などを期待して用いられる。 ・主な種類としては、コルチゾール、プレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、 ベタメタゾンなどがある。 3-1.ステロイドの作用機序 ・ステロイドは、ホスホリパーゼA2(PLA2)を抑制するリポコルチンを誘導(生合成)することで 消炎鎮痛作用を示す。 <アラキドン酸カスケード> 【抑制】 細胞膜のリン脂質 リポコルチン → ホスホリパーゼA2 →↓ アラキドン酸 シクロオキシゲナーゼ →↓ ↓← 5-リポキシゲナーゼ (省略) (省略) ・アラキドン酸の生成そのものが抑えられるため、NSAIDsと同様の作用と、ロイコトリエンの生 成も抑えられる。 ・ロイコトリエン(LT)は炎症反応において、白血球遊走、活性酸素産生、NK細胞活性化、血管 透過性亢進など、非常に重要な役割を担う。また、気管支収縮作用を持つ。ステロイドの投与 によってこれらの生体反応が抑制される。 3-2.主な副作用 ・副作用として次のようなものがある。 a.過剰な免疫抑制作用(リンパ球抑制作用)が発現することによる感染症 b.糖質コルチコイド作用を持つ物質が外部から余剰に与えられたことによるクッシング症候群 c.ネガティブフィードバックとして副腎皮質機能不全 d.糖新生の促進による糖尿病 e.骨吸収の亢進と骨形成の低下による骨量の減少に伴う骨粗鬆症 f.消化管粘膜におけるプロスタグランディン産生抑制による消化性潰瘍 などが知られている。 ・気管支喘息においてステロイドを吸入で用いた場合にはステロイド剤は呼吸器系の組織に局 所的に作用し、血中に移行する量が少ないため副作用が少ない。 4.麻薬性鎮痛薬(オピオイド鎮痛薬) ・モルヒネ、フェンタニル(効果はモルヒネの100~200倍)、オキシコドン、コデインなどがあ る。 ・オピオイドとは、「オピウム(アヘン)類縁物質」という意味。アヘンは、現在では収穫したケシ 果を溶液に浸して麻薬成分を溶出・精製して作られることが多い。 ・モルヒネ、コデインはアヘンに含まれるもの(モルヒネはアヘン中に約10%含有)であり、フェ ンタニルやナロキソンはこれらを元に人口合成されたもの。 ・脳や脊髄の神経細胞の細胞表面に存在するオピオイド受容体に作用する。 (オピオイド受容体には、μ受容体(ミュー受容体:主にβエンドルフィンやエンケファリンが作 用する)、δ受容体(デルタ受容体:主にエンケファリンが作用する)、κ受容体(カッパー受容 体:主にダイノルフィンが作用する)などが知られている。 ・オピオイド受容体は、侵害受容線維であるC線維やAδ線維のシナプス末端部に存在し、リ ガンド(特定のレセプターに特異的に結合する物質)が結合することによって、cAMP の産生 抑制、K+チャネルの開口促進、Ca+チャネルの開口抑制、疼痛伝達物質(サブスタンスPなど) の放出抑制などによって鎮痛効果を現わす(痛みが伝わらなくなる)。 ・悪心、嘔吐、便秘などの副作用があり、連用は耐性を起こし、精神的、身体的依存性がある。 ・オピオイド受容体の特異的拮抗薬としてナロキソンがある。 5.神経ブロック ・麻酔を用いた治療法の一種であり、神経痛などの恒常的な痛みを訴えている患者に行なわ れる。 ・局所麻酔薬を浸透させることで、神経そのものの機能を一時的に麻痺させる。これにより、痛 みの悪循環回路を遮断する意義を持つ。 ・局所麻酔薬は、活動電位の発生と伝導を担っている電位依存性Na+チャネルの開口をブロッ クすることによって活動電位の伝導を遮断し、局所麻酔作用を発揮する。 ・星状神経節ブロック注射:星状神経節は首の付け根付近にあり、交感神経が集まっているた め施術の応用範囲が広く、神経ブロック療法の中ではポピュラーな方法である。 ・硬膜外ブロック注射:硬膜は脊髄を取り囲んでいる一番外側の膜で、硬膜と黄色靭帯との隙 間のことを硬膜外腔と言い、ここに局所麻酔薬などを注入する。 ・他の薬剤を併用しつつ、様子を見ながら複数回行われることが一般的である。 6.筋弛緩薬、鎮痙薬 ・交感神経節を介する筋肉れん縮や血管収縮を解除することにより、血行改善、発痛物質生成 抑制によって痛みを軽減させる。 ・主なものに、エペリゾン塩酸塩、チザニジン塩酸塩、アフロクァロン、クロルフェネシンカルバミ ン酸エステル、トルペリゾン塩酸塩などがある。 7.抗うつ薬の鎮痛作用 ・脳から下行性に痛みを抑制する神経路(下行性疼痛抑制経路)が存在するが、抗うつ薬はこ の経路を賦活する。 ・この経路で使われる神経伝達物質はノルアドレナリンとセロトニンであり、抗うつ薬は神経細 胞外の伝達物質濃度を高める。 ・鎮痛効果は一般的に抗うつ効果がみられない低用量で発現する。 ・鎮痛効果を期待する場合には三環系抗うつ薬が適していると言われる。 8.抗けいれん薬の鎮痛作用 ・薬の種類によって、作用機序は異なる。 ・カルバマゼピンやフェニトインは、非特異的にNa+チャネル受容体をブロックして膜安定化作用 をもたらし、侵害受容C線維の発作性の異常発火や損傷線維の過興奮を抑制する。 ・バルプロ酸ナトリウムは、主に抑制性の神経伝達物質として機能しているγ-アミノ酪酸(GA BA) の受容体に作用して、GABAと同様の効果を増強することによって鎮痛効果をもたらすと 考えられている。 <関連リンク> ◆麻薬 ◆鎮痛 ◆痛みとは ◆副腎皮質ホルモン ◆うつ病と対策 |