必須脂肪酸


必須脂肪酸とは
・狭義ではリノール酸α-リノレン酸のみを指す。
・これらはヒトの体内では合成できないため、必ず食事から摂取しなければならない
・体内での代謝は下記のようであるが、オレイン酸からリノール酸の合成、およびリノール酸からα-リノレン酸
 の合成は植物でのみ可能となっている。
・天然においては、これらの脂肪酸の多くはグリセロール(グリセリン)と結合してトリグリセリドの形で存在す
 ると考えられており(後述)、少なくともヒトの小腸で吸収された直後にはジグリセリドやトリグリセリドに再
 合成され、さらにリポタンパク質の膜に覆われたカイロミクロンとなり、リンパ管に入る。

<生合成・代謝経路> 
              ↓
            アセチルCoA
               :
               ↓
            ステアリン酸 18:0
              ↓
            オレイン酸 18:1(9)
              ↓※1         ※2
γ-リノレン酸  リノール酸 18:2(9,12) 
18:3(6,9,12)
  ↓
ジホモ-γ-リノレン酸 → 1グループの
20:3(8,11,14)         プロスタグランディン
  ↓             トロンボキサンA1
アラキドン酸 → 2グループの
20:4(5,8,11,14)   プロスタグランディン(E2、I2等)
           トロンボキサンA2
           4グループのロイコトリエン


 【ω-6系】






          ※1及び※2は、植物は可能

α-リノレン酸 18:3(9,12,15)
   
オクタデカテトラエン酸
18:4(6,9,12,15)
   ↓
エイコサテトラエン酸
20:4(8,11,14,17)
   ↓
エイコサペンタエン酸(EPA)
20:5(5,8,11,14,17) → 3グループの
   ↓           プロスタグランディン
ドコサペンタエン酸    トロンボキサンA3
22:5(7,10,13,16,19)   5グループのロイコトリエン
   ↓
ドコサヘキサエン酸(DHA)
22:6(4,7,10,13,16,19)

 【ω-3系】
・これらの脂肪酸は、アセチルCoAを出発点として炭素鎖の延長および二重結合の生成により行われていく
 が、高等動物においては、オレイン酸からリノール酸、およびリノール酸からα-リノレン酸の合成ができない
 (二つ以上存在する二重結合のω端側には二重結合を増やすことができない)。
・従って、リノール酸やα-リノレン酸は食物から摂取する必要がある。
・リノール酸やα-リノレン酸を元にして、体内でプロスタグランディンなどの重要な生理活性物質が作られ
 るため、不足すると健康を保つことはできなくなる。
・体内での炎症反応を進めるプロスタグランディン(E2やI2などの2グループ)は、リノール酸からアラキドン酸
 を経由して合成される。ステロイド薬はアラキドン酸が生成されないように働くことで炎症を抑え、非ステロ
 イド性消炎鎮痛薬はアラキドン酸からのプロスタグランディン類生成を抑えることで解熱鎮痛作用をもたらす。
・ω-3系から生成されるプロスタグランディン類については、健康食品や美容関係者からのコマーシャルベー
 スでの誤情報がWeb上に散乱しているが、正式な科学的なデータが揃うまでは言及を避けた方が良さそう
 である。後述するように、ω-6系とω-3系の摂取量とそのバランスに気をつけて摂取するようにすれば良い。


各必須脂肪酸の特徴
 ◆リノール酸(linoleic acid、9,12-octadecadienoic acid)の特徴
・炭素数18、二重結合数2の多価不飽和脂肪酸でn-6系
 (ω-6(オメガ-6))脂肪酸。
・脂肪酸を構成する炭素を、メチル基(末端メチル炭素:ω
 -炭素)の方から数えて、最初の炭素をn-1、2番目の炭
 素をn-2と数えるため、18:2(n-6)または18:2(6,9)と表記
 される。
 あるいは、カルボキシル基側から数えて9位と12位の炭
 素原子に二重結合を持っているので、18:2Δ9,12または
 18:2(9,12)とも表記される。
・4種の幾何異性体があるが、天然品は主にシス・シス体
 のため、折れ曲がった構造となる。これにより分子間の
 距離が広がって引力は弱まり、脂肪酸の融点が低下す
 る。
・上述のように、リノール酸を元にしてジホモ-γ-リノレン
 酸やアラキドン酸が生合成される。
・植物油の成分として多く含まれ、食用油では紅花油、コ
 ーン油、大豆油、ごま油などに多い。

α-リノレン酸
 (9,12,15-octadecatrienoic acid)
 の特徴

・炭素数18、二重結合数3の多価不飽和脂肪酸でn-3系
 (ω-3(オメガ-3))脂肪酸。
・18:3(n-3)または18:3(3,6,9)、あるいは18:3Δ9,12,15
 または18:3(9,12,15)と表記される。
・天然品は主に全シス体。
・上述のように、α-リノレン酸を元にして、EPAやDHAが
 生合成される。
・食用油ではエゴマ油、亜麻仁油などの成分として多く
 含まれる。
栄養素として重要である必須脂肪酸
 特に、α-リノレン酸は不足しがちである

・リノール酸とα-リノレン酸の理想的な摂取割合は、4:1から2:1の比率であると言われている。
・現代においてはリノール酸の摂取不足はあまり考えられないが、α-リノレン酸の不足は大いに考えられ
 る。
(一般的な食用油におけるα-リノレン酸の含有量は少ない、あるいは極めて少ないため、亜麻仁油また
 はエゴマ油を1日にスプーン1杯ほど飲めば摂取できる。)
・必要量は「日本人の食事摂取基準(2005年版)」で成人では、ω-6系脂肪酸は1日に7~12グラム以上、ω-3
 系脂肪酸は、1日に2.0~2.9グラム以上と示されている。なお、ω-3系脂肪酸の多量摂取はNK細胞の活性
 を低下させるという報告もあるため、あくまで適正量を摂取すべきである。
・国際的に脂質を評価しているISSFAL(International Society for the Study of Fatty Acids and Lipids)は、
 必須脂肪酸の1日あたりの適正な摂取量は、リノール酸は全カロリーの2%、α-リノレン酸0.7%、冠動脈の
 健康のためにEPAとDHAを合計で最低500mgとしている。
 (なお、油であるため、過剰摂取(合計で2g以上)は避けるべきである。)
・必須脂肪酸は、広義ではこれに、ω-6脂肪酸ではγ-リノレン酸アラキドン酸、ω-3脂肪酸ではエイコサ
 ペンタエン酸(EPA)
ドコサヘキサエン酸 (DHA)を含める。理由は、これらは体内で合成できるが、多く
 は合成できないとされるため。

EPAについて
・3グループのプロスタグランジン、トロンボキサン-3、ロイコトリエン-5、およびDHAの前駆体であるとされて
 おり、α-リノレン酸から生合成される。
・中性脂肪低下作用、抗血小板作用があるとされており、健康目的でDHAとともにサプリメントとして用いら
 れている。

DHAについて
・脳や神経組織、精子、網膜のリン脂質に含まれる脂肪酸の主要な成分である。
・ DHAの摂取は血中の中性脂肪量を減少させることによる心臓病の危険低減、アルツハイマー型痴呆や
 うつ病などの疾病に対しても有効であるとされる。
・不足すると脳内セロトニンの量が減少し、幼少時であれば多動性障害(多動性、不注意、衝動性などの症
 状を特徴とする発達障害あるいは行動障害)、全年齢的にはうつ病の発症リスクを増やすとの報告がある。
・魚油に多く含まれる(海産の微生物によって生産されたものが、食物連鎖の過程で濃縮されたものである)。


必須脂肪酸はどんな形で含まれているのか
・普通の状態の植物油に含まれる脂肪酸は、その96~98%がトリアシルグリセロール(triacylglycerol)の形で
 存在すると言われる。
・アシル基とはカルボン酸からヒドロキシ基(-OH)をのぞいた形((R-CO-)の原子団のことをいう。
・トリアシルグリセロールはトリグリセライド、トリグリセリド(triglyceride)とも呼ばれる。略してTAGまたはTGと
 表される。
・TGは、1分子のグリセロール(グリセリン)に3分子の脂肪酸が結合(エステル結合)したものである。
・脂肪酸に対し、TGは一般に中性脂肪とも呼ばれるが、植物性のものの多くは液体であり、「中性脂質」と呼
 ぶのであれば許されるであろう。
・ちなみに、ヒトの血漿中では、脂肪酸類の何割かはコレステロールと結合したコレステロールエステル(アシ
 ルコレステロール)であるとされる。


脂肪酸の分類
・脂肪酸とは、長鎖炭化水素の1価のカルボン酸であるが、炭素数が多いもの、特に12(ラウリン酸)以上の脂
 肪酸を一般に高級脂肪酸と呼ぶ。
・脂肪酸 は炭素数および不飽和結合の有無によって主に分類される。
・不飽和度による分類はさまざまであるが、基本的には以下の分類に従う。
 ①飽和脂肪酸(saturated fatty acid, SFA)・・・炭素鎖に二重結合あるいは三重結合を有しない(飽和である)。
 ②不飽和脂肪酸(unsaturated fatty acid, UFA)・・・炭素鎖に二重結合、三重結合を有する。
   また不飽和脂肪酸は二重結合の数が1つであるか、複数であるかによって以下の分類がなされる。
   ①-a.一価不飽和脂肪酸(モノエン脂肪酸)・・・二重結合の数が1つである。
   ②-b.多価不飽和脂肪酸(ポリエン脂肪酸)・・・二重結合の数が2つ以上である。二重結合の数が4つ以
    上のものを高度不飽和脂肪酸と呼ぶ場合もある。
・鎖状のみならず分枝鎖を含む脂肪酸も見つかっている。また環状構造を持つ脂肪酸も見つかってきている。


トランス脂肪酸について
・上述のリノール酸やαリノレン酸をはじめ、オレイン酸などの不飽和
 脂肪酸は、天然には大半がシス体であるが、二重結合部位の1カ
 所のみが幾何学的に逆方向に折れ曲がる(すなわち分子全体とし
 ては直線状になる)トランス体が何割か存在する。
・これは一般的に「トランス脂肪酸」と呼ばれ、人体に対する影響につ
 いて様々な議論がなされている。
・トランス脂肪酸の存在は、天然においては、ある種の微生物(腸内細菌などをも含む)によって生合成され、
 特に腸内細菌の影響が大きい反芻動物(ウシ、ヤギなど)の肉や乳にも含まれている。(その含有量は、
 肉や乳中の脂質のうち2~5%ほどであるとされる。)
・トランス脂肪酸は人工的にも生成され、特に不飽和脂肪酸に水素添加して固形化する行程で生成しやすく、
 その他、天然の植物油を精製・脱臭する行程でも生成すると言われる。また、調理のときの加熱や酸化時
 にもわずかながら生成するようである。
・トランス脂肪酸が多く含まれる可能性が高い食品としては(製造者、製品、商品によってその含有量は様々
 であるが)、一般的に、マーガリン、ショートニングおよびこれを用いた製品(菓子パン、クッキー、ドーナツ、
 コーヒーフレッシュ、カレールーなど)、フライドポテト、揚げ物などがあげられる。高含有の商品では一食あ
 たり3gほども含まれているようである。

トランス脂肪酸もβ酸化で代謝されるが・・・
・トランス脂肪酸は、シス型(シス体)の脂肪酸の代謝と同じようにβ酸化によって代謝され、エネルギー源と
 して消費されるため、体内に蓄積されることはないとされている。
・しかし、疫学的な調査結果として、トランス脂肪酸はLDLを増やし、HDLを減らし、心臓病のリスクを高めると
 の報告がなされており、これを受けて一方的に警告を促している団体や管理栄養士などが存在する。一方
 で、これらを本格的に研究している研究者の中には、まだまだデータ不足であるとする意見もある。(本来、
 人体にて比較実験をすることは不可能なことであり、疫学的調査に頼るしかないが、多量のトランス脂肪を
 摂った証拠が無い限り、たとえば冠動脈疾患の原因がトランス脂肪であったとも結論づけられないというこ
 とである。)
・唯一言えることは、人体はトランス脂肪酸が無くても、天然のシス体のリノール酸とαリノレン酸をがあれば
 生きてゆけるわけであり、人為的な行程で増えた物質の摂取は控えた方が無難であるということである。


<関連リンク>
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2013年1月更新  stnv基礎医学研究室・清水隆文

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