セフェム系


ペニシリンとは少し異なった抗生物質を、また別のカビが作っていた
 
Cephalosporium属で見つかったのでセファロスポリン
・セファロスポリン(Cephalosporin)と名付けられた抗生物質は、旧名ではCephalosporium属のカビの一種、
 現在の分類および命名ではAcremonium属のカビの一種が産生している物質である。
・ただし、セファロスポリンを産生する菌は他にも Emericellopsis属、Streptomyces属、Anixiopsi属、Arachno
 -myces属、Spiroidium属で見つかっている。
 (ペニシリンも複数の属においてその産生能が確認されており、一般に「カビ」と呼ばれている不完全菌や
 子嚢菌(これらは糸状菌とも呼ばれる)には、このような抗細菌性物質を多かれ少なかれ産生・分泌して、
 自分の住むテリトリーを守ってきたと言える。)

Acremonium falciforme (旧名:Cephalosporium属)
・セファロスポリンが発見されたの
 は、ペニシリンの発見から19年
 後、ペニシリンの実用化から6年
 後にあたる1948年である。
・1940年代は、ペニシリンGを初め
 として、他の種類の抗生物質、
 すなわちストレプトマイシン(経
 口投与できない、副作用強い)、
 テトラサイクリン(副作用強め)、
 クロラムフェニコール(重大な副
 作用あり)なども開発されて用い
 られていたが、まだまだ満足でき
 るものではなく、新しい抗生物質
 の開発が強く望まれている時代であった(現代でもその状況はあまり変わらないが・・。)
・セファロスポリンはイタリア人のGiuseppe Brotzu によって発見されたと伝えられている。
・Acremoniumの培養液において抗菌活性の強い画分はさらに分離・精製され、最も活性の強かった成分が
 セファロスポリンCである。

セファロスポリンは一部のグラム陰性菌にも効き、
 胃酸やペニシリナーゼ対しても安定であった

・1940年代において、ペニシリンGは優れた抗生物質であったが、グラム陰性菌に対してはあまり効果が無く、
 胃酸にも不安定でるために経口投与できなかった。また、既に耐性菌の出現が問題になっていた。
・しかし、セファロスポリンCは一部のグラム陰性菌に対しても効果を示し、また胃酸などの酸に対する安定
 性も高く、ペニシリンを分解するペニシリナーゼ(β-ラクタマーゼ)に対しても耐性を持っており、ペニシリンシ
 ョックのようなアレルギーの副作用も比較的少ないものであった。
・その後、セファロスポリンCを元にして、より多くのグラム陰性細菌に効くように、あるいは高い安定性を持つ
 ように、あるいは人体内における薬物動態的に更に優れたものにするために、様々に化学修飾されたセフ
 ァロスポリンの誘導体が開発され、次々と市場に現れることになる(後述)。これらは「セファロスポリン系抗
 生物質」と総称され、現代においても重要な抗生物質のひとつである。
・耐性菌出現の問題はどのような抗菌薬の場合にも付いてまわるものであり、セファロスポリン系の抗生物
 質についてもやがて問題になっていく。


セファロスポリンもペニシリンも
  「β-ラクタム」の構造を持っているから「β-ラクタム系」

・セファロスポリンの分子中にはβ-ラクタムの構造(β-ラクタム環と呼ばれる)が見られ
 る。
・ペニシリン分子中にもこのβ-ラクタム環が存在するため、両者は「β-ラクタム系抗生物
 質」という分類名に属することになる。(β-ラクタム環をもつ抗生物質は、総称して「β-
 ラクタム系抗生物質」と呼ばれる。)
・セファロスポリンの生合成経路は、ある段階まではペニシリンと共通しており、すなわ
 ちペニシリン(ペニシリンN)を元にセファロスポリンが生合成される。
・β-ラクタム系抗生物質が抗菌活性を発揮するメカニズムはペニシリンの項目で述べた
 ものと同様である。
 (すなわち、β-ラクタム系抗生物質は真正細菌のペプチドグリカン合成酵素の活性中
 心部分に近づくとβ-ラクタム環が開環してペプチドグリカン合成酵素の活性中心にある
 セリン残基の水酸基と共有結合をして離れなくなることで、酵素阻害作用を発現する。)

β-ラクタム環
・ただし、ペニシリンとセファロスポリンでは、阻害するペプチドグリカン合成酵素の種類が異なると言われて
 いる。従って、その効果の現れ方は少し異なっている。
・セファロスポリンは、変性した細胞壁を作らせることによって細胞分裂を抑制するように働くため、殺菌では
 なく静菌的であると言われる。


今度は放線菌から、グラム陰性菌によく効き、安定性も高い別の
 β-ラクタム系抗生物質が見つかり、セファマイシンCと命名された

Streptomyces clavuligerus

cephamycin C
・1971年になって、放線菌である Streptomyces clavuligerus から、セファロスポリンによく似た分子構造をも
 った抗生物質が発見され、セファマイシンC(Ccephamycin C)と命名された。
・名前の「-マイシン」は、「myc-」(「菌」を表す連結形)および、そのルールに則って付けられたこの放線菌の
 学名 Streptomyces の「-myces」にちなんで付けられている。
・「放線菌」の分類やその特徴付けは時代とともに大きな変化があったが、一般的にはカビ類とは違って真
 正細菌の一種であり、菌糸を伸ばすことが多いために外見上は糸状菌のように見えるグループである。
・セファマイシンCは従来のセファロスポリン系抗生物質に比べて、グラム陰性菌に対する効果がさらに高く、
 β-ラクタマーゼに対する安定性も高かった。
・その後、セファロスポリンCの場合と同じく、セファマイシンCを元にして様々に化学修飾されたセファマイシ
 ンの誘導体が開発され、市場に現れることになる。これらは「セファマイシン系抗生物質」と呼ばれ、現代
 においても使用されている抗生物質である(後述)。


セファロスポリンもセファマイシンも
 「セフェム」構造をもつため、総称して
 「セフェム系抗生物質」とも呼ばれる

・現代においてはβ-ラクタム環を持つ抗生物質(抗菌薬)の種類は非常に
 多く、さらに細かい分類をしようと思うと、他の部分の分子構造でもって分
 類せざるを得ない状況になっている。
・右図で示している構造が「セフェム」であり、この骨格を持っている抗生物
 質は「セフェム系」と呼ばれる。

セフェム(Cephem)

セフェム系抗生物質とは何なのか?
 放線菌の Streptomyces clavuligerus は、ペニシリンN →
 セファロスポリン → セファマイシンC の順に生合成していく

・セファロスポリンの生合成経路は、ある段階まではペニシリンと共通しており、すなわちペニシリン(ペニシリ
 ンN)を元にセファロスポリンが生合成されていることは上述したとおりである。
・さらに、この放線菌は、セファロスポリンCが完成する直前で新たな合成経路を使ってセファマイシンCを生合
 成していることが明らかになった。
 (わざわざエネルギーを使って作るからには、元のものより優れたものができあがっているはずである。
 ペニシリン系 → セファロスポリン系 → セファマイシン系 という人類による抗生物質の開発の歴史と一致し
 ているため、非常に興味深い。)
・セファロスポリンとセファマイシンの分子構造上の根本的な違いは、セフェムの7α位が -H であるか -OCH3
 (メトキシ基)であるかである。



Streptomyces clavuligerus によるセファマイシンCの生合成経路


セフェム系抗生物質の歴史概略
・1948年にセファロスポリンCが発見されて以来、併行して改良されてきたペニシリン系抗生物質の特性を上
 回るよう(抗菌スペクトラムの広域化、βラクタマーゼに対する安定性、副作用の低減化、注射のみならず
 経口投与可能化、その他吸代排などの薬物動態の改良など)、化学修飾して改良され、1970年代からよう
 やく多数のセファロスポリン系抗生物質が登場してきた。
・1970年代後半からは、ペニシリン系に代わってセファロスポリン系が中心に使われるようになった。
・セファロスポリン系抗生物質は、欧米においてはその開発年代に応じて第一世代~第四世代に便宜上分
 類されるが、一般的に世代が進むにつれて抗菌スペクトラムは広域化している(多くのグラム陰性桿菌に
 も有効になっている)。

セファレキシン(Cefalexin)〔1970年~〕
{セファロスポリン系 第1世代}


セフェピム(Cefepime)〔1994年~〕
 {セファロスポリン系 第4世代}

・1971年に発見されたセファマイシンCも化学修飾されて改良され、1977年のセフォキシチンを初めとして数
 種類が登場することになる。

セフォキシチン(Cefoxitin)〔1977年~〕
{セファマイシン系}


セフメタゾール(Cefmetazole)〔1980年~〕
{セファマイシン系}

・セファロスポリン系とセファマイシン系の分子構造上の違いは上述したとおり、セフェムの7α位が -H であ
 るか -OCH3(メトキシ基)であるかの違いだけである。β-ラクタム部分の構造は抗菌活性の要ではあるが、
 見方によっては両者をはっきり区別するほどのことも無かろうということで、これらは総称して「セフェム系」
 と称されることになっていく。
・1980年代にはその他のβ-ラクタム系抗生物質として、モノバクタム系と呼ばれる抗生物質、1990年代には
 カルバペネム系と呼ばれる優れた抗菌薬が開発され(別ページにて紹介する)、治療目的によって使い分
 けされていくことになる。
 (カルバペネム系抗菌薬は極めて広い抗菌スペクトラムを有す優れた抗菌薬であるが、そのために耐性
 菌の増加を招きやすいわけである。ペニシリンのページにも書いたが、できれば目的の菌だけに有効であ
 って、その他の菌には影響を及ぼさない狭いスペクトラムの抗菌薬を上手に使うことの方が望ましいわけ
 である。)

<関連リンク>
 抗生物質・ペニシリン  マクロライド系
 サルファ薬・ST合剤  ニューキノロン系

 寄生虫疾患・原虫疾患  真菌症  細菌感染症
 マイコプラズマ・リケッチア・クラミジア感染症  ウイルス感染症

  2012年8月  stnv基礎医学研究室・清水隆文

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