栄養素の代謝


腸から吸収された栄養素はどうなるのか
食後数時間の『吸収期』とその後の『空腹期』

・まず、全般的に、食後数時間(食べた物や食べた量にもよるが、おおよそ3時間ぐらい)の間は、「吸収期」
 と呼ばれ、腸から吸収され血液中に流れ込んできた栄養素が使われると同時に、空腹期に向けての栄養
 素の貯蔵が行われる。(電気製品であれば、充電しながら使用している時間帯に相当する。)
・一方、腸管からの吸収が終わった後は「空腹期」と呼ばれ、貯蔵した栄養素、あるいはそれから変換した
 貯蔵物質を元の栄養素に再変換しながら、それを利用している状態となる。(電気製品であれば、バッテ
 リーに蓄えた電気を利用して使用している状態に相当する。)
・具体的には、栄養素の種類によって異なった方法がとれられるため、下記に栄養素の種類別に記述する。


1.糖質のゆくえ
   ~ 常に適正な血糖値を維持することが目標 ~

<吸収期>
・「消化と吸収」のページで述べたように、糖質は刷子縁と呼ばれる小腸内壁の絨毛から吸収されて、絨毛
 にある毛細血管に入り、門脈を経由して肝臓に運ばれる。
・肝臓に運ばれてきた糖質の一部はそのまま肝臓から出て全身の血液循環に乗り、各細胞のエネルギー
 源として使われる。
・空腹時の血糖値はおよそ80~100mg/dl程度に調節されているが、食後であってもこれを大幅に越えると、
 それこそ全身的な弊害を被ってしまうため、高血糖にならないように余分な糖質は肝臓において次のよう
 に処理される。
・すなわち、グルコースは肝細胞内において酸化さ
 れてグルコース-6-リン酸となり、大部分はグリコ
 ーゲンへと変換されて貯蔵される。グルコース以
 外の糖はグルコースに変換されて同様の過程を
 経る。
・肝臓への貯蔵可能量はエネルギー換算でおよそ
 400kcal程度とされている。
・肝臓での処理能力を超える多量の糖質が短時間
 に肝臓に流れ込んだ場合、血糖値は大幅に上昇
 することになる。また、空腹期でない時期には肝
 臓のグリコーゲン貯蔵スペースは既に満杯であり
 上述の処理は不可能となり、血糖値は更に上昇
 することになる。

【地球上の動物は、高血糖に対する防備が
 たいへん貧弱である=インスリンしかない】

・血糖値は一定の狭い範囲内に維持されることが
 望ましいわけであり、インスリンの働きによって
 血糖値が大きく上昇しないように、たとえ上昇し
 ても短時間で解決できるように少しは工夫され
 てる。
・すなわち、膵臓のランゲルハンス島β細胞にグ
 ルコースが流入すると、肝臓と膵臓β細胞にし
 かないグルコキナーゼによってグルコースがグ
 ルコース-6-リン酸になり、これによって細胞内
 にカルシウムイオンの流入が起こってインスリン
 が放出される。
・インスリンによって骨格筋はグルコースの取り
 込みを促進し、グルコースをグリコーゲンに変換
 して貯蔵する。また、脂肪組織はグルコースを
 脂肪(トリグリセリド)に変換して貯蔵する。

グリコーゲン
・上述の様々な処理が間に合わない場合、血糖値がおよそ180mg/dlを越えると腎臓でのグルコースの再
 吸収能力を超えるため尿に糖が排出される。(例えば一度にショ糖をおよそ180g以上摂取した場合、ある
 いは糖分の多い清涼飲料水を2.5Lほど一気に飲んだ場合に相当する。)

<空腹期>
・一方、空腹期においては、まず肝臓に貯蔵されたグリコーゲンが分解されてグルコースが生じ、それが供
 給される。
・同時に、筋肉に貯蔵されたグリコーゲンが筋肉中でピルビン酸にまで解糖されてエネルギーを発生させ、
 生じたピルビン酸はアミノ酸であるアラニンに変換されて血流により肝臓にまで運ばれてグルコース生成
 の材料にされる。これは「グルコース-アラニン回路」と呼ばれる。
(筋肉細胞はグルコース-6-ホスファターゼの活性が低いためにグリコーゲンからグルコースを生成すること
 はできない。)
  《 肝臓では・・・血糖値の維持 》   《 筋肉では・・・エネルギー発生 》
   グリコーゲン
    ↓
   グルコース-1-リン酸
    ↓
   グルコース-6-リン酸  グルコース
                       ↑
                     アラニン
   グリコーゲン
    ↓
   グルコース-1-リン酸
    ↓
   グルコース-6-リン酸  グルコース
    ↓
  <解糖系にてエネルギー発生>
   ピルビン酸 → アラニン
・肝臓に蓄えたグリコーゲンはたかだか400kcal程度、
 筋肉中のそれも同程度だといわれており、空腹期の
 次の段階では、グルコースの使用を中枢神経系に
 限定し、他の組織では貯蔵脂肪が分解されて利用
 されるようになる。
・貯蔵脂肪が分解されると脂肪酸とグリセロール(グリ
 セリン)になるが、脂肪酸は中枢神経細胞以外のエ
 ネルギー源となり、グリセロールは肝臓にてグルコ
 ース生成の材料になる。
・貯蔵脂肪の分解によってもエネルギー源や中枢神
 経細胞が必要とするグルコースがまかないきれない
 場合は、筋肉などのタンパク質がアミノ酸にまで分
 解され、そのうちの大部分のアミノ酸(糖原性アミノ
 酸)がグルコースにまで変換(糖新生)されて、急場
 をしのぐことになる。


ピルビン酸


アラニン


2.アミノ酸やペプチドのゆくえ
アミノ酸やペプチドも糖質と同じように、絨毛にある毛細血管に入り、門脈を経由して肝臓に運ばれる。
・肝臓に運ばれたアミノ酸は、ヒトに特有のタンパク質に合成されたり、あるいは全身の細胞にまで送り届け
 られて、各細胞におけるタンパク質合成の材料にされる。
・タンパク質合成に利用されなかったアミノ酸は、主として肝臓で糖や脂質の代謝経路に入り、糖や脂肪に
 変換されたり、あるいは酸化分解されてエネルギー源となる。
・エネルギー源として使われた場合、アミノ酸ゆえに水と二酸化炭素以外に窒素化合物を作ってしまうこと
 になり、これはアンモニア→尿素として排泄される。
・アミノ酸類の血中濃度や、その成分バランスは厳密にコントロールされており、食後であっても大幅に増加
 したり、成分バランスが大きく変わったりすることは一般的には無い。ちなみに、血中アミノ酸の異常は、
 そのアミノ酸の種類によって病気との関連性があり、病気の診断にも使われている。
・もし、サプリメントなどによって特定のアミノ酸が大量に摂取された場合、肝臓で分解され、腎臓を経て排泄
 されることになる。この作業は肝臓や腎臓に過大な負担をかけることになる。
・逆に、特定のアミノ酸が不足した場合、非必須アミノ酸であれば体内で合成されるが、必須アミノ酸であれ
 ば、筋肉などにあるタンパク質を分解して足りないアミノ酸を補充することになる。


3.トリグリセリド(中性脂肪)のゆくえ
<吸収期>
・トリグリセリドは小腸において脂肪酸やモノグリセリドにまで分解され、小腸上皮細胞の細胞膜を通過して
 小腸上皮細胞内に拡散する。
・小腸上皮細胞内で再びトリグリセリドに再合成され、さらにリポタンパク質の膜に被われたカイロミクロンと
 なり、細胞間腔側に放出される。
・放出されたカイロミクロンは、直近のリンパ管(乳糜管)に入り、乳糜管は更に大きなリンパ管に合流し、そ
 こから胸管に運ばれ、さらに左鎖骨下静脈に合流する。
・カイロミクロンは、血液中にあるリポタンパク質リパーゼ(LPL)によって脂肪酸とグリセロールに分解される
 と、その大部分が肝臓や脂肪組織の細胞内に取り込まれる。
 (細胞内に取り込まれるためには細胞膜を通過する必要があり、脂肪酸やグリセロール、あるいはグリセ
 ロールに1分子の脂肪酸のみが結合したモノグリセリドなどの低分子にまで分解されている必要がある。)
・LPLによる分解の途中でアポリポタンパク質が加わると、カイロミクロンよりも小さな粒子であるカイロミクロ
 ンレムナント(カイロミクロン残留物)と呼ばれる粒子が生じ、これは肝臓に取り込まれた時に超低比重リポ
 タンパク(VLDL)が構成され、血液中に最還流される。
・このVLDLは血液中でLPLによって脂肪酸とグリセロールに分解されると、各細胞に取り込まれて利用され
 ることになる。
・利用される場合、大部分の脂肪酸はエネルギー源として使われるが、中には細胞膜などの生体膜の構成
 成分として、あるいはプロスタグランディン等の生理活性物質の原料として利用されるものもある。
・一般的に、普通の食事を摂ったあとの吸収期における体のエネルギー源としては、吸収されたばかりの糖
 質が主に使われ、トリグリセリドはごく一部がエネルギー源として用いられるのみであって、不要な脂肪酸
 とグリセロールは脂肪細胞内でトリグリセリドに再合成され、いわゆる体脂肪として貯蔵される。

<空腹期>
・空腹期においては、中枢神経系以外の細胞は、貯蔵脂肪の分解によって得られた血中の遊離脂肪酸を
 エネルギー源として用いるようになる。
・遊離脂肪酸は、細胞質においてβ酸化と呼ばれる代謝経路によって大量のアセチルCoAを供給することが
 でき、その後は糖質と同じようにミトコンドリア内でのATP産生に向かう。
・遊離したグリセロールからはグルコースが生成(糖新生)されて、そのままエネルギー源として用いられる。


<関連リンク>
 消化と吸収  栄養  糖質(炭水化物)  タンパク質  アミノ酸  必須脂肪酸
 中性脂肪  脂溶性ビタミン  水溶性ビタミン  ミネラルの話  カルシウム
 痩せる方法

2013年1月更新  stnv基礎医学研究室・清水隆文

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