サルファ薬・ST合剤


合成抗菌薬の第一号がサルファ薬である
 スルファニルアミドが抗菌活性の本体 
・1932年、ドイツのゲル
 ハルト・ドーマクによっ
 て、赤色アゾ染料の
 一種であるプロントジ
 ルがレンサ球菌に対
 して抗菌活性を持つ
 ことが発見された。
・プロントジルは、体内
 で代謝され、スルファ
 ニルアミドが生成し、
 これが抗菌活性の本
 体であることが見出
 された。

プロントジル(Prontosil)

スルファニルアミド(sulfanilamide)
『抗菌活性の本体』
・スルファニルアミド
 をその骨格に持つ
 化合物がサルファ
 薬(sulfonamides)
 と言われる。
・その後、1939年に
 スルファセタミドが
 開発されたのを初
 めとして、様々な
 種類のサルファ薬
 が開発された。

スルファセタミド(Sulfacetamide)

スルファメトキサゾール(Sulfamethoxazole)

サルファ薬の作用機序
 菌はスルファニルアミドを4-アミノ安息香酸と間違えて取り込む
・サルファ薬が抗菌活性を示すときの標的は菌における葉酸代謝で
 あり、結果として主にDNA合成を抑制することによって静菌的に作
 用する。
葉酸はビタミンB群に位置づけられており、グルタミン酸と4-アミノ
 安息香酸とプテリジンが結合した構造を持つ。
・葉酸はテトラヒドロ葉酸に変換された後に、DNAの構成要素である
 ピリミジンやプリンの合成や分解、アミノ酸の代謝、ポリペプチド鎖
 合成などに広く関わる補酵素としてはたらく。
・スルファニルアミドやその類縁体は、4-アミノ安息香酸とよく似てお
 り、菌細胞内に入ると葉酸を合成する材料として、ジヒドロプテロイ
 ン酸合成酵素に結合して使われようとするが、ニセモノであるため
 に反応は進まない(=ジヒドロプテロイン酸合成酵素阻害 ; すなわ
 ちジヒドロプテロイン酸合成酵素にスルファニルアミドが結合するこ
 とによって、4-アミノ安息香酸からジヒドロプテロイン酸の合成がで
 きなくなる。)
 
4-アミノ安息香酸
(4-aminobenzoic acid)
(パラアミノ安息香酸、PABA)
細菌だけではなく、真菌症原虫疾患に対する効果もある。
・ヒトを含めた哺乳動物は、ジヒドロプテロイン酸合成酵素を持っていない(自分で葉酸を合成できない)ため、
 スルファニルアミドの影響は受けない。すなわち、菌類に対してだけ選択的に毒性を発揮することになる。


喜びも束の間、耐性菌が現れる
 ニセモノを見分ける精度が向上した
・サルファ薬に対する耐性獲得機構は、そのターゲットであるジヒドロプテロイン酸合成酵素が遺伝的に変異し、
 スルファニルアミドやその類縁体(すなわちサルファ薬)に対する親和性が低下する(=結合しなくなる)ことに
 よって、これらの影響を受けなくなることであると解釈されている。


少し異なった作用機序の薬と組み合わせる
 ST合剤として使われるトリメトプリム
・サルファ薬単独での使用は耐性菌を産みやすい。
・その解決策として、現代においても用いられることがある薬
 剤がST合剤と呼ばれるものである。
・「S」はサルファ薬であるスルファメトキサゾールを指し、「T」
 はトリメトプリムを指す。
・トリメトプリムはサルファ薬ではない。
・トリメトプリムはジヒドロ葉酸還元酵素(ジヒドロ葉酸レダクタ
 ーゼ)を阻害することによって、ジヒドロ葉酸からテトラヒドロ
 葉酸への変換を抑える。
 (短絡的に言えば、サルファ薬は葉酸の産生を抑える薬で
 あるが、トリメトプリムは葉酸を働く形にさせない薬であると
 言える。)

トリメトプリム(trimethoprim)
・ST合剤は、スルファメソキサゾールとトリメトプリムを5対1の比率で配合した合剤である。
・両薬を組み合わせることで耐性菌の出現リスクを低下させ、抗菌力的にも相乘効果が期待できる。(トリメトプ
 リムの単独使用では耐性菌を産みやすかったため、単独使用は認可されていない。)


ヒトにとっても重要なジヒドロ葉酸還元酵素を阻害しても良いの?
・ジヒドロ葉酸還元酵素は、あらゆる生物で普遍的に存在する酵素であるが、生物種ごとにその部分的なアミ
 ノ酸配列が変異してきており、外部形状も少しずつ異なっている。
・そこで、細菌のジヒドロ葉酸還元酵素にのみ強い親和性を持つ薬物が選ばれた結果、トリメトプリムが誕生し
 た。従って、トリメトプリムはヒトの葉酸代謝には影響を及ぼさない。
・ちなみにヒトのジヒドロ葉酸還元酵素に親和性を持つ(阻害する)薬物は、抗癌剤や抗リウマチ薬として使わ
 れているメトトレキサートである。作用機序は、増殖の速い細胞群の増殖速度を抑制するということである。


現代におけるST合剤の使われ方
・まず最初に基本的な原則であるが、他の医薬品と違い、ターゲットは頻繁に遺伝的変異を起こす微生物であ
 って、昨日まで効いていたが今日から効かないという事態が起こりうることである。
・上記の原則を踏まえた上で、現代においてどのような場合に使われてきたかのみを紹介する。
 ①ニューモシスチス肺炎(AIDS患者で最も多い。旧:カリニ肺炎)。これは深在性の真菌である。細菌以外に
  も真菌やトキソプラズマなどの原虫にも効果があるのが利点である。
 ②尿路感染症。これは、他の抗菌剤と比較すると尿路への移行性に優れているためである。ただし、尿路感
  染症に緑膿菌やアデノウイルスなど、ST合剤の効果が及ばない病原体が関与している場合は適用外であ
  る。(今日においては、尿路感染症の第一選択薬はニューキノロン系の抗菌薬になってきている。)


<関連リンク>
 抗生物質・ペニシリン  セフェム系  ニューキノロン系
 寄生虫疾患・原虫疾患  真菌症  細菌感染症
 マイコプラズマ・リケッチア・クラミジア感染症  ウイルス感染症

2012年7月  stnv基礎医学研究室・清水隆文

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